今朝見た通りの餅が、今朝見た通りの色で椀の底に膠着(こうちゃく)している。白状するが餅というものは今まで一辺(ぺん)も口に入れたがない。見るとうまそうにもあるし、また少しは気味(きび)がわるくもある。前足でにかかっている菜っ葉を掻(か)き寄せる。爪を見ると餅の皮(うわかわ)が引き掛ってねばねばする。嗅(か)いで見ると釜の底の飯を御櫃(おはち)へ移す時のような香(におい)がする。食おうかな、やめようかな、とあたりを見廻す。幸か不幸か誰もいない。御三(おさん)は暮も春も同じような顔をして羽根をついている。供は奥座敷で「何とおっしゃる兎さん」を歌っている。食うとすれば今だ。もしこの機をはずすと年までは餅というものの味を知らずに暮してしまわねばならぬ。吾輩はこの刹那(せつな)に猫ながら一の真理を感した。「難き機はすべての動物をして、まざるをも敢てせしむ」吾輩は実を云うとそんなに雑煮を食いたくはないのである。否椀底(わんてい)の様子を熟視すればするほど気味(きび)が悪くなって、食うのが厭になったのである。この時もし御三でも勝手口を開けたなら、奥……(内容加载失败!)
(ò﹏ò)
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