正文 三 - 2

鼻毛で妻君を追払った主人は、まずこれで安と云わぬばかりに鼻毛を抜いては原稿をかこうと焦(あせ)る体(てい)であるがなかなか筆は動かない。「焼芋を食うも蛇足(だそく)だ、割愛(かつあい)しよう」とついにこの句も抹殺(まっさつ)する。「香一 もあまり唐突(とうとつ)だから已(や)めろ」と惜気もなく筆誅(ひっちゅう)する。余す所は「居士は空間を研究し論語を読む人である」と云う一句になってしまった。主人はこれでは何だか簡単過ぎるようだなと考えていたが、ええ面倒臭い、文章は御廃(おはい)しにして、銘だけにしろと、筆を十文字に揮(ふる)って原稿紙のへ手な文人画の蘭を勢よくかく。せっかくの苦も一字残らず落となった。それから裏を返して「空間に生れ、空間を究(きわ)め、空間に死す。空たり間たり居士(てんねんこじ)噫(ああ)」と意味不明な語を連(つら)ねているところへ例のごとく迷亭が這入(はい)ってる。迷亭は人の(うち)も分のも同じものとているのか案内も乞わず、ずかずかってくる、のみならず時には勝手口から飄(ひょうぜん)と舞い込むもある、……(内容加载失败!)

(ò﹏ò)

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