主人のうちへ女客は稀有（けう）だなと見ていると、かの鋭どい声の所有主は縮緬（ちりめん）の二枚重ねを畳へ擦（す）り付けながら這入（はい）ってる。年は四十のを少し超（こ）したくらいだろう。抜けった生（は）え際（ぎわ）から前髪が堤防工のように高く聳（そび）えて、少なくとも顔の長さの二分の一だけに向ってせりしている。眼が切り通しの坂くらいな勾配（こうばい）で、直線に釣るしげられて左右に対立する。直線とは鯨（くじら）より細いという形容である。鼻だけは無暗にきい。人の鼻を盗んでて顔の真中へ据（す）え付けたように見える。三坪ほどの庭へ招魂社（しょうこんしゃ）の石灯籠（いしどうろう）を移した時のごとく、独（ひと）りで幅を利かしているが、何となく落ちつかない。その鼻はいわゆる鍵鼻（かぎばな）で、ひと度（たび）は精一杯高くなって見たが、これではあんまりだと中途から謙遜（けんそん）して、先の方へ行くと、初めの勢に似ず垂れかかって、にあるを覗（のぞ）き込んでいる。かく著（いちじ）るしい鼻だから、この女が物を言うときは口が物を言うと云わんより、鼻が口をきい……（内容加载失败！）
(ò﹏ò)
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