正文 三 - 10

猫の足はあれども無きがごとし、どこを歩いても不器な音のした試しがない。空を踏むがごとく、雲を行くがごとく、水中に磬(けい)を打つがごとく、洞裏(とうり)に瑟(しつ)を鼓(こ)するがごとく、醍醐(だいご)の妙味を甞(な)めて言詮(ごんせん)のほかに冷暖(れいだん)を知(じち)するがごとし。月並な西洋館もなく、模範勝手もなく、車屋の神さんも、権助(ごんすけ)も、飯焚も、御嬢さまも、仲働(なかばたら)きも、鼻子夫人も、夫人の旦那様もない。行きたいところへ行って聞きたい話を聞いて、舌をし尻尾(しっぽ)を掉(ふ)って、髭(ひげ)をぴんと立てて悠々(ゆうゆう)と帰るのみである。ことに吾輩はこのに掛けては日本一の堪(かんのう)である。草双紙(くさぞうし)にある猫又(ねこまた)の血脈を受けておりはせぬかと(みずか)ら疑うくらいである。蟇(がま)の額(ひたい)には夜光(やこう)の明珠(めいしゅ)があると云うが、吾輩の尻尾には神祇釈教(しんぎしゃっきょう)恋無常(こいむじょう)は無論の、満の人間を馬鹿にする一相伝(いっかそうでん)の妙薬が詰め込んである。……(内容加载失败!)

(ò﹏ò)

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