さすがに春の灯火(ともしび)は格別である。真爛漫(らんまん)ながら無風流極まるこの光景の裏(うち)に良夜を惜しめとばかり床(ゆか)しげに輝やいて見える。もう何時(なんじ)だろうと室(へや)の中を見廻すと四隣はしんとしてただ聞えるものは柱時計と細君のいびきと遠方で女の歯軋(はぎし)りをする音のみである。この女は人から歯軋りをすると云われるといつでもこれを否定する女である。は生れてから今日(こんにち)に至るまで歯軋りをした覚(おぼえ)はございませんと強情を張って決して直しましょうとも御気の毒でございますとも云わず、ただそんな覚はございませんと主張する。なるほど寝ていてする芸だから覚はないに違ない。しかし実は覚がなくても存在するがあるから困る。世の中には悪いをしておりながら、分はどこまでも善人だと考えているものがある。これは分が罪がないと信しているのだから無邪気で結構ではあるが、人の困る実はいかに無邪気でも滅却する訳には行かぬ。こう云う紳士淑女はこの女の系統に属するのだと思う。――夜(よ)は分更(だいぶふ)けたようだ。
台所の雨戸にト……(内容加载失败!)
(ò﹏ò)
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