正文 五 - 4

吾輩の眼前に悠(ゆうぜん)とあらわれた陰士の顔を見るとその顔が――平常(ふだん)神の製についてその栄(できばえ)をあるいは無の結果ではあるまいかと疑っていたのに、それを一時に打ち消すに足るほどな特徴を有していたからである。特徴とはほかではない。彼の眉目(びもく)がわが親愛なる男子水島寒月君に瓜(うり)二つであると云う実である。吾輩は無論泥棒にくの知己(ちき)は持たぬが、その行為の乱暴なところから平常(ふだん)像して(ひそ)かに中に描(えが)いていた顔はないでもない。鼻の左右に展開した、一銭銅貨くらいの眼をつけた、毬栗頭(いがぐりあたま)にきまっていると分で勝手に極(き)めたのであるが、見ると考えるとはの相違、像は決して逞(たくまし)くするものではない。この陰士は背(せい)のすらりとした、色の浅黒い一の字眉の、意気で立派な泥棒である。年は二十六七歳でもあろう、それすら寒月君の写生である。神もこんな似た顔を二個製造しる手際(てぎわ)があるとすれば、決して無をもって目する訳には行かぬ。いや実際のを云うと寒月君身が気が変に……(内容加载失败!)

(ò﹏ò)

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