主人の勝手には引窓がない。座敷なら欄間(らんま)と云うような所が幅一尺ほど切り抜かれて夏冬吹き通しに引窓の代理を勤めている。惜し気もなく散る彼岸桜(ひがんざくら)を誘うて、颯(さっ)と吹き込む風に驚ろいて眼を覚(さ)ますと、朧月(おぼろづき)さえいつの間(ま)に差してか、竈(へっつい)の影は斜めに揚板(あげいた)のにかかる。寝過ごしはせぬかと二三度耳を振って内の容子(ようす)を窺(うかが)うと、しんとして昨夜のごとく柱時計の音のみ聞える。もう鼠のる時分だ。どこからるだろう。
戸棚の中でことことと音がしだす。皿の縁(ふち)を足で抑えて、中をあらしているらしい。ここからるわいとの横へすくんで待っている。なかなかてる景色(けしき)はない。皿の音はやがてやんだが今度はどんぶりか何かに掛ったらしい、重い音が時々ごとごととする。しかも戸を隔ててすぐ向う側でやっている、吾輩の鼻づらと距離にしたら三寸も離れておらん。時々はちょろちょろとの口まで足音が近寄るが、また遠のいて一匹も顔をすものはない。戸一枚向うに現在敵が暴行を逞(たくま)しくしているのに……(内容加载失败!)
(ò﹏ò)
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