「本さ。現に僕のおやじが価(ね)を付けたがある。その時僕は何でも六つくらいだったろう。おやじといっしょに油町(あぶらまち)から通町(とおりちょう)へ散歩にると、向うからきな声をして女の子はよしかな、女の子はよしかなと怒鳴(どな)ってくる。僕等がちょうど二丁目の角へると、伊勢源(いせげん)と云う呉服屋の前でその男にっ食わした。伊勢源と云うのは間口が十間で蔵(くら)が五(い)つ戸前(とまえ)あって静岡一の呉服屋だ。今度行ったら見て給え。今でも歴と残っている。立派なうちだ。その番頭が甚兵衛と云ってね。いつでも御袋(おふくろ)が三日前に亡(な)くなりましたと云うような顔をして帳場の所へ控(ひか)えている。甚兵衛君の隣りには初(はつ)さんという二十四五の若い衆(しゅ)が坐っているが、この初さんがまた雲照律師(うんしょうりっし)に帰依(きえ)して三七二十一日の間蕎麦湯(そばゆ)だけで通したと云うような青い顔をしている。初さんの隣りが長(ちょう)どんでこれは昨日(きのう)火で焚(や)きされたかのごとく愁(しゅうぜん)と算盤(そろばん)に身を凭(……(内容加载失败!)
(ò﹏ò)
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