迷亭もここにおいてとうてい済度(さいど)すべからざる男と断念したものと見えて、例に似ず黙ってしまった。主人は久し振りで迷亭を凹(へこ)ましたと思って意である。迷亭から見ると主人の価値は強情を張っただけ落したつもりであるが、主人から云うと強情を張っただけ迷亭よりえらくなったのである。世の中にはこんな頓珍漢(とんちんかん)なはままある。強情さえ張り通せば勝った気でいるうちに、人の人物としての相場は遥(はる)かに落してしまう。不思議なに頑固の本人は死ぬまで分は面目(めんぼく)を施こしたつもりかなにかで、その時後人が軽蔑(けいべつ)して相手にしてくれないのだとは夢にも悟りない。幸福なものである。こんな幸福を豚的幸福と名づけるのだそうだ。
「ともかくもあした行くつもりかい」
「行くとも、九時までにいと云うから、八時からて行く」
「校はどうする」
「休むさ。校なんか」と擲(たた)きつけるように云ったのは壮(さかん)なものだった。
「えらい勢(いきおい)だね。休んでもいいのかい」
「いいとも僕の校は月給だから、差し引かれる気遣(きづかい)はない……(内容加载失败!)
(ò﹏ò)
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