この時主人は、昨日(きのう)紹介した混沌(こんとん)たる太古の眼を精一杯に見張って、向うの戸棚をきっと見た。これは高さ一間を横に仕切って共各(おのおの)二枚の袋戸をはめたものである。の方の戸棚は、布団(ふとん)の裾(すそ)とすれすれの距離にあるから、き直った主人が眼をあきさえすれば、ここに視線がむくようにている。見ると模様を置いた紙がところどころ破れて妙な腸(はらわた)があからさまに見える。腸にはいろいろなのがある。あるものは活版摺(かっぱんずり)で、あるものは筆である。あるものは裏返しで、あるものは逆さまである。主人はこの腸を見ると同時に、何がかいてあるか読みたくなった。今までは車屋のかみさんでも捕(つらま)えて、鼻づらを松の木へこすりつけてやろうくらいにまで怒(おこ)っていた主人が、突この反古紙(ほごがみ)を読んで見たくなるのは不思議のようであるが、こう云う陽の癇癪持ちには珍らしくないだ。供が泣くときに最中(もなか)の一つもあてがえばすぐ笑うと一般である。主人が昔(むか)しる所の御寺に宿していた時、襖(ふすま)一(ひ……(内容加载失败!)
(ò﹏ò)
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