正文 十一 - 1

床の間の前に碁盤を中に据(す)えて迷亭君と独仙君が対坐している。

「ただはやらない。負けた方が何か奢(おご)るんだぜ。いいかい」と迷亭君が念を押すと、独仙君は例のごとく山羊髯(やぎひげ)を引っ張りながら、こう云(い)った。

「そんなをすると、せっかくの清戯(せいぎ)を俗了(ぞくりょう)してしまう。かけなどで勝負にを奪われては面白くない。敗(せいはい)を度外において、白雲のに岫(しゅう)をでて冉々(ぜんぜん)たるごとき持ちで一局を了してこそ、個中(こちゅう)の味(あじわい)はわかるものだよ」

「またたね。そんな仙骨を相手にしちゃ少々骨が折れ過ぎる。宛(えんぜん)たる列仙伝中の人物だね」

「無絃(むげん)の素琴(そきん)を弾じさ」

「無線の電信をかけかね」

「とにかく、やろう」

「君が白を持つのかい」

「どっちでも構わない」

「さすがに仙人だけあって鷹揚(おうよう)だ。君が白ならの順序として僕は黒だね。さあ、たまえ。どこからでもたまえ」

「黒から打つのが法則だよ」

「なるほど。しからば謙遜(けんそん)して、定石(じょうせき)にここいらから行こ……(内容加载失败!)

(ò﹏ò)

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