「向の一路はヴァイオリンなどで開ける者ではない。そんな遊戯三昧(ゆうぎざんまい)で宇宙の真理が知れては変だ。這裡(しゃり)の消息を知ろうと思えばやはり懸崖(けんがい)に手を撒(さっ)して、絶後(ぜつご)に再び蘇(よみが)える底(てい)の気魄(きはく)がなければ駄目だ」と独仙君はもったい振って、東風君に訓戒じみた説教をしたのはよかったが、東風君は禅宗のぜの字も知らない男だから頓(とん)と感したようすもなく
「へえ、そうかも知れませんが、やはり芸術は人間の渇仰(かつごう)の極致を表わしたものだと思いますから、どうしてもこれを捨てる訳には参りません」
「捨てる訳に行かなければ、お望み通り僕のヴァイオリン談をして聞かせるにしよう、で今話す通りの次だから僕もヴァイオリンの稽古をはじめるまでには分(だいぶ)苦をしたよ。一買うのに困りましたよ先生」
「そうだろう麻裏草履(あさうらぞうり)がない土にヴァイオリンがあるはずがない」
「いえ、あるはあるんです。金も前から意して溜めたから差支(さしつか)えないのですが、どうも買えないのです」
「なぜ?」
「狭い……(内容加载失败!)
(ò﹏ò)
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